人の姿はしているものの、まさしく仙女なり 心奪われん…

「春香伝」は、韓国で永く語り伝えられてきた愛の名作。

 16歳の春香と夢龍が身分を越え試練を越えて貫く愛を描いた、韓国古典の傑作である。これまで何度も舞台化、映画化が繰り返されてきたが、パンソリによって全編が歌い継がれる「春香伝」は、本作が初めてとなる。監督は『風の丘を越えて〜西便制』でパンソリの旅芸人親子を通して深い感動を残したアジアの巨匠、イム・グォンテク。再びパンソリの壮大なスケールとともに、伝統とモダンを共存させた新たな愛の伝説を描き出した。

春香と夢龍、今世紀まで語り継がれてきた、16歳の恋

 大樹のふもと、大空をめがけて勢い良くブランコを漕ぐ美しい娘春香にひと目で心を奪われたのは貴族の子息、夢龍。身分の違いを越えて愛し合うふたりの前に、その愛の強さを試す試練が訪れる…。複雑な愛の形ばかりに見慣れてしまった現代にあって、気高さと純粋さを保ち、命をかけて愛をまっとうするふたりの恋物語は瑞々しいばかりにスクリーンを彩り、そして「たった一人を愛し貫く」春香の姿は、恋を知るすべての人に捧げられるだろう。


パンソリと映像がもたらす、圧倒的な調和 ― 豊饒なる映画の完成

 全編にわたって歌われるパンソリと映像のリズムとの感動的なまでの調和によって、観客はぐいぐいとこのラブストーリーに引き込まれてしまう。そのパンソリを歌うのは、人間国宝に指定されている名唱チョ・サンヒョン。そして情緒と躍動感に満ちた四季の色合いを撮り上げたのはアジアのみならず欧米からも評価の高い撮影監督チョン・イルソン。製作にあたっては専門家による緻密な時代考証が繰り返され、舞台となっている李朝時代が完全に再現されている。

まさに各界の第一人者たちによって作り上げられた本作は、韓国映画として初めてカンヌ国際映画祭コンペ部門に正式出品を果たし、満場の喝采をもって迎えられた。

パンソリとは

 韓国固有の伝統音楽で、朝鮮半島南西部、全羅道(チョルラド)で主に語り継がれてきた演唱、口誦(こうしょう)芸能である。元来は庭にムシロを一枚敷いただけのパン(場)で、物語をソリ(声、音)として表現されてきた。日本の浄瑠璃にもたとえられるこの「音楽」の物語では古典文学や歴史的出来事などが主に扱われているが、ここには日本の民謡や演歌にも通じる伝統音楽のルーツがあるといわれ、より根源的な哀切に満ちた叫びや、痛みにも似た情念が込められている。優れたパンソリの歌い手は「名唱」と呼ばれる。
パンソリは韓国にあるいくつかの芸術の中で、普遍的かつ共感できる、もっとも完成度の高い芸術のひとつであるといえる。

春香伝とは

 春香伝は18世紀はじめに韓国でつくられ、パンソリによって伝承され、韓国古典の傑作として何度となく小説、映画、演劇などの題在となってきた。基本的に作者は未詳。映画『春季伝』の原作であるパンソリの「春香歌(チュニヤンガ)」は、全部で12篇程あるパンソリの唄本の中でも最も人気がある作品であり、文学性、音楽性、演劇的なドラマ性を兼ね備え、もっとも芸術牲に優れているといわれる。身分を越え命を懸ける春香と夢龍の恋物語は、社会批判と逆転劇を盛り込みつつ、封建時代の身分制度から脱却しようとする作者たちの不断の意思が反映されている。舞台となっている南原(ナムウォン)はソウルから約4時間、西南に下った盆地にあり、毎年「春香祭」が盛大に催され、日本からも多くの人が訪ねている。

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