墓参り
 
 見島では、多くのおばあちゃんが毎朝欠かさず墓参りに訪れる。どの手にも線香の入った筒と花(注1)が握られており、お墓につくとまず花や水を新しいものに取り替える。また、気温が高いと水がすぐ蒸発して花も傷みやすいため、毎年夏になると朝夕二回の墓参りをするという。
 見島の墓地では、ほとんどの墓石が高さ1メートルほどの石垣で囲まれている。その理由については諸説があり、島の高齢者に聞いてもはっきりしたことはわからない。墓参りをしている十数人のおばあちゃんに話を聞くと、「墓地が海の近くにあるため、風よけとして冬の強い季節風から墓石の倒壊を防ぐ目的で作られた」という答えが返ってきた。
 また、「本村」に住む弘中ミネさんは、「最近は墓を囲んでいる石垣をブロックに変える家があるでしょう。あれは熱がこもるので、花や水がすぐ枯れるんですよ。石垣もブロックも夏には直射日光を防いでくれるんですけど、石垣の方が適度に隙間もあって花や水が傷みにくいんです」と言う。
 なぜ毎日欠かさず墓を参るのかを本村の墓地でおばあちゃんに聞くと、「都会の方やったらお盆くらいしか参らんじゃろうけど、私らは毎日こうやってお墓へ参りにくるんです。島の年よりはみんなそうですよ。日課のようなもんですね。昨日みたいに雨が降ればお休みするけど、そうでなけりゃあ必ず毎朝お参りに来ますよ。そうしないと花や水が枯れてしまうでしょう。墓に供える花を枯らすような家は栄えん。見島ではそう言うんです。毎年お盆の15日は全部の親戚のお墓をお参りするんですけど、どのお墓も花が青々してきれいですよ。20件あるなら20件、30件あるなら30件全部を参る。どこの家でもそう」という答えが返ってきた。本土から見島へ嫁いできた多田静子さん(御主人は多田健介さん)は、初めて墓地を訪れた時の印象をこう語ってくれた。「見島の方は毎日お墓参りにいかれるでしょう。あれを見て見島はいいところやなぁと思いました。どのお墓も花が生き生きしてるでしょう。あれには本当に感心しました」。
 
(注1) 花:「しきび」と呼ばれる葉っぱのようなもの。
【文・末武和之】
 

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